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Bobby Brown
更新 2026-06-24
ハステロイ C:特性・グレード比較・化学薬品適合表

目次


ハステロイ C とは

ハステロイ C(Hastelloy C)は、米国 Haynes International, Inc  3 が開発・製造するニッケル-クロム-モリブデン(Ni-Cr-Mo)系のニッケル基耐食超合金シリーズです。「Hastelloy」は Haynes International の登録商標であり、「C」シリーズは高ニッケル・モリブデン・クロムを基本成分とする合金グレード群の総称です。

ハステロイ C が多くの現場で選ばれる最大の理由は、酸化性・還元性という性質の異なる二種類の化学環境において、どちらでも安定した耐食性を発揮できることにあります。ステンレス鋼や多くのニッケル合金は通常どちらか一方にしか対応できません。複数の薬液を扱う環境や、腐食条件が複雑・予測困難なプロセスで特に重宝される材料です。

化学プロセス・医薬品製造・半導体ウェットプロセス・排煙脱硫・原子力など幅広い産業で採用実績があります。炭素鋼と比較して導電率・熱伝導率は低く、電気抵抗率・熱膨張率は高い点は、配管設計や接続部の設計時に考慮が必要です。

ハステロイ C のグレード

ハステロイ C シリーズには複数のグレードがあり、それぞれ組成・耐食特性・得意とする環境が異なります。産業用途で最もよく選定される三種は C-276・C-22・C-4 です。互換性はなく、用途に応じた適切な選定が重要です。

ハステロイ C-276

最も広く使用されるグレード

シリーズ中、最も幅広い化学的耐食性を持つグレードです。酸化性酸・還元性酸・塩化物含有媒体・孔食・すき間腐食に対して高い耐性を示します。溶接後熱処理なしで化学プロセス設備に直接適用できる初の Ni-Cr-Mo 合金として、50 年以上の工業実績を持ちます。

適した用途:一般化学プロセス・混合媒体環境・塩化物含有流体

ハステロイ C-22

酸化性媒体向け

クロム含有量が高く(22%、C-276 は 16%)、強酸化性環境での耐食性は C-276 を上回り、局部腐食への抵抗性も優れています。C-276 母材の溶接部が最も脆弱な箇所となる場合、C-22 を溶接フィラー材として使用することも一般的です。

適した用途:強酸化性酸・混合酸環境・溶接部の耐食性が重要な用途

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ハステロイ C-4

高温安定性

650~1040°C での熱安定性を重視したグレードです。タングステン含有量を抑えることで、長時間の高温使用時における粒界析出リスクを低減し、機械特性と耐食性を長期にわたり維持します。

適した用途:高温長期使用・微細組織の長期安定性が求められる用途


ハステロイ C の化学的・物理的特性

ハステロイ C シリーズは高強度・高靭性を持つ一方で、加工硬化しやすい性質から機械加工の難易度は一般的なオーステナイト系ステンレス鋼より高くなります。変形率が 15% に達すると硬化の程度は 18-8 ステンレスの約 2 倍になることも。低速切削・超硬工具の使用が基本であり、冷間加工を行う場合は途中で焼鈍(中間アニーリング)を挟む必要があります。 

実務上の大きな利点として、溶接熱影響部(Heat-Affected Zone:HAZ)における耐食性があります。HAZ とは、溶接時の熱によって組織に影響を受ける溶接部周辺の金属領域のことです。多くの金属では、この HAZ で粒界析出が起こります——合金中の特定元素が金属結晶の粒界(粒と粒の境界部分)に集まって析出物を形成し、その部位の耐食性が局所的に低下する現象です。ハステロイ C はこの粒界析出を抑制する設計になっており、溶接後の熱処理なしで多くの化学プロセス用途にそのまま使用できます。設備製造の工程を大幅に簡略化できる、実用上の強みです。

下表は、最も多く選定される 2 グレード——C-276 と C-22 の物理的・機械的特性を比較したものです。成分の違いが耐食性能の差に直結しています:C-22 はクロム含有量が高くモリブデン含有量が低いため酸化性媒体に優れ、C-276 はモリブデン含有量が高いため還原性環境に強みを持ちます。数値はいずれも焼鈍材の値です。C-276 は Haynes International および ASTM B622 の最小規格値、1 C-22 は Haynes International C-22 データシートおよびブローシャーの値です。2 C-4 の特性については Haynes International の C-4 データシートをご参照ください。 

特性 C-276(UNS N10276) C-22(UNS N06022)
基本組成 Ni 57%(残部)、Mo 16%、Cr 16%、W 4%、Fe 5% Ni 56%(残部)、Cr 22%、Mo 13%、W 3%、Fe 3%
密度 8.89 g/cm³ 8.69 g/cm³
引張強さ 690 MPa 最小値(ASTM) 800 MPa 平均値(薄板・室温)
耐力 283 MPa 最小値(ASTM) 407 MPa 平均値(薄板・室温)
伸び 40% 最小値(ASTM) 57% 平均値(薄板・室温)
融点範囲 1325–1370°C 1357–1399°C
最高使用温度(腐食環境) 約 400°C(750°F)——両グレード共通
熱伝導率 10.5 W/m·K(50°C) 約 10.1 W/m·K(50°C)
電気抵抗率 1.23 μΩ·m(室温) 1.22 μΩ·m(室温)
主な強み 最も幅広い化学耐食性;還元性・混合媒体環境 酸化性媒体;塩化物孔食への優れた耐性

ハステロイ C の用途

幅広い耐食性と機械的信頼性を背景に、ハステロイ C シリーズはステンレス鋼では対応困難な環境で広く採用されています。主な用途は以下のとおりです。

  • 化学プロセス:硫酸・塩酸・塩化物を取り扱う反応器・熱交換器・配管
  • 医薬品・農薬:有機酸・酸化剤・反応副生成物接触設備
  • 半導体・ウェットプロセス:強酸・強アルカリ薬液供給システム・ウェットベンチ部材
  • 排煙脱硫(FGD):酸性ガス・スラリー接触システム
  • パルプ・製紙:塩素系漂白工程設備
  • 原子力:高放射線・高温環境の構造材料

ハステロイ C 化学薬品適合表

下表は、ハステロイ C シリーズの主要工業薬品に対する適合性評価です。特記なき限り常温条件での評価値です。グレード別の評価ではありません——C-276・C-22・C-4 の実際の性能は薬品・濃度・温度によって異なります。本表はあくまで初期スクリーニングの参考としてご利用ください。

OK 使用可
事前テスト・確認が必要
X 使用不可
N/A データ不足
ご注意:本表は単一薬品・常温条件での接触を前提としています。複数薬品の混合環境・高温・高濃度条件では適合性が大きく変化する場合があります。材料選定にあたっては実際の使用条件での事前検証を推奨します。グレード別の腐食速度データについては、Haynes International データシートまたはLORRIC 技術サポートにお問い合わせください。
分類 薬品名 ハステロイ C 適合性
有機酸 酢酸 OK(20%)
氷酢酸 OK
無水酢酸 OK
クエン酸 OK
有機化合物 アセトアルデヒド OK
アセトン OK
メチルアルコール OK
アニリン OK
ベンズアルデヒド N/A
ベンゼン OK
ベンジルアルコール N/A
塩化ベンジル N/A
コーン油 N/A
エタノール OK
エチレングリコール OK
脂肪酸 OK
ホルムアルデヒド(40%) OK
ギ酸 OK
ヘキサン N/A
乳酸 OK
メタノール OK
パラフィン油 N/A
石油 N/A
フェノール OK(50°C 未満)
液化プロパン N/A
プロパノール OK
ステアリン酸 OK
タンニン酸 N/A
酒石酸 OK
トルエン N/A
尿素
無機化合物 アンモニア OK
塩化アンモニウム OK
水酸化アンモニウム OK
硝酸アンモニウム OK
硫酸アンモニウム OK
王水 X
塩化バリウム OK
水酸化バリウム OK
ブライン(塩水) OK
塩化カルシウム OK
水酸化カルシウム OK
炭酸 OK
塩素酸 OK
塩素 OK
洗剤 N/A
臭化水素酸 N/A
塩酸 N/A
フッ化水素酸 N/A
過酸化水素(30%) OK
硝酸(5%) OK
リン酸 N/A
水酸化カリウム OK
硝酸カリウム OK
硫酸カリウム OK
炭酸ナトリウム OK
水酸化ナトリウム N/A
硝酸ナトリウム N/A
硫酸 OK(40%・80°C 未満) OK(90%)
二酸化硫黄 OK

よくあるご質問

ハステロイ C-276・C-22・C-4 の違いは何ですか?

簡潔にまとめると:C-276 は汎用途向け、C-22 は強酸化性環境向け、C-4 は高温長期使用向けです。三者はハステロイ C シリーズに属しますが互換性はありません。
• C-276 は化学耐食性の幅が最も広く、一般的な化学プロセスに幅広く対応します。
• C-22 はクロム含有量が高く強酸化性媒体に強い特性を持ち、C-276 の溶接補修フィラー材としても活用されています。
• C-4 は 650〜1040°C での長期使用を想定した設計で、粒界析出——合金成分が結晶粒界に集まって析出し耐食性が低下する現象——を抑制し、高温下での性能安定性を保ちます。
選定にあたっては、実際の化学環境・温度・製造工法を総合的に考慮してください。

ハステロイ C は塩酸に耐えますか?

低濃度・低温条件であれば耐性を持ちます。ただしグレードと使用条件によって結果は大きく変わります。
C-22 の実験データでは:1% 塩酸で約 93°C 以下において腐食速度 0.1 mm/年未満、5% 塩酸・38°C では 0.01 mm/年未満と良好な数値を示しています。2 ところが濃度が 5% を超えると様相が一変します。5% 塩酸・66°C で 0.44 mm/年、10% 塩酸・66°C では 0.98 mm/年まで上昇します。2 C-276 はモリブデン含有量が高く、還元性の塩酸環境では同等水準の耐食性を示します。1 いずれも高温・高濃度塩酸への使用は推奨しません。実際のプロセス条件での事前検証を必ず行ってください。

ハステロイ C と AISI 316 ステンレス鋼の比較を教えてください。

腐食条件が厳しい環境では、ハステロイ C の耐食性能は 316 SS を大きく上回ります。その代わりコストと加工難易度は相当高くなります。塩化物含有環境・還元性酸・複合腐食媒体などでは明確な差が出ます。一般的な腐食条件には 316 SS で対応できるケースがほとんどですが、条件が過酷になればなるほどハステロイ C の選択が合理的になります。 AISI 316 化学薬品適合表 と比較参照されることをお勧めします。

用途に合ったハステロイ C グレードの選び方を教えてください。

使用条件に応じて選べます。混合媒体・塩化物・有機酸を扱う一般的な化学プロセスなら C-276 を第一候補に。強酸化性条件、または溶接部の腐食耐性が重要なポイントなら C-22 を。650°C を超える高温での長期使用なら C-4 を選定してください。選定に迷われる場合は、薬品名・濃度・使用温度をお知らせいただければ、 LORRIC 技術サポート にて最適なグレードをご提案いたします。

参考資料

  1. Haynes International. HASTELLOY® C-276 Alloy Datasheet(2023). haynesintl.com — C-276 データシート(PDF). 本ページの代表的な物理・機械特性および腐食速度データの出典。
  2. Haynes International. HASTELLOY® C-22® Alloy Brochure(2023). haynesintl.com — C-22 ブローシャー(PDF). C-22 の組成・物性・機械特性・融点範囲データの出典。
  3. Hastelloy — Wikipedia. ハステロイ合金シリーズおよびグレード変遷の背景資料。
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